『私の愛しい罪びとよ…』

見れば吹き込んだ夕暮れのに、境内の掛けられた絵馬たちがいっせいにその身を翻すところであった

景色は沈み行く陽光の色に染められ、社も狛もみな一様に身を赤く火照らせていた。

賽銭から首を巡らし石段を見やると、普段は白い御影石が、この時ばかりはと燃え上がるようにその縁を輝かせている後ろに続く下りの斜面は、おそらく一面に朱色と化しているだろう

まるで火の海のようだ。

ふと、眼裏の燃え立つ光景に不吉なものを覚え、わたしは視線を他方へと彷徨わせた

の帰るべき道は、これではない。

今見つめるその石段は、我が家へとは導いてはかった。
かうべき帰路は社の奥の、黒ずんだ雑木林こうにある
既に
そこ光の帯も届かず、社の影と混じり合って黒々と風景の中に沈み込んでいる。



 

彼女がきたのだろうか。

 

そっと背後の空気が、頷いた。

 

 

 

 

『私の愛しい罪びとよ、迎えに来ました』

 

 

 

 

 

 

 

赤い陽光が凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

素材提供: 暗黒工房さま