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明 日 は 明 日 の 風 が 吹 く
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その日は朝からついていなかった。
寝過ごして慌てて駆け込んだ食堂で、大嫌いなメニューが出てきたことから始まって、覚えていない悪夢の所為で朝からずっと偏頭痛に悩まされた。中隊のシミュレーションは珍しく最悪の成績だったし、何もないところでつまずいて思いきり顔を強打した。鼻血を止めて貰おうとよろめきながら医務室にたどり着くと、肝心の2-1Bは整備中で、お喋りな女性地上勤務員にクスクス笑われながら手当てされた。兎に角やることなすこと全てがうまくいかず、いつもの修理を手伝いにファルコンに向かう頃には、ルーク・スカイウォーカーの神経はすっかりささくれ立っていた。
チューイとハンのいつもの口論に更に神経を逆撫でされながらも、なんとか笑顔で切りぬけると、ルークは彼らの口喧嘩が聞こえない個所で作業に取り掛かった。
ミレニアム=ファルコンは人の気分を読むらしい。ルークは苦々しくそんなことを思った。全てのシステムがいつも以上に頑固で、ルークが手を触れることを拒んでいるかのようだった。床下に位置するエンジン部に入りこんだ青年は精神的な限界に近づいていた。少しも弛もうとしないボルトに焦れて、その結合部をスパナで乱暴に叩いたとたん、衝撃で頭上の工具箱が傾き、ありとあらゆる工具が降ってきた。
ガシャーンという騒音と鉄同士が擦れる音に混じって聞こえてきた悲鳴に、ファルコンの上部で作業をしていたソロは危うく足を踏み外しそうになった。
「な…?」
素早く梯子を降り、無意識に声の主の名をつぶやきながら、ソロは円形の廊下を大股で下った。
「キッド、大丈夫か?」
床下から空の工具箱が覗き、少々乱暴に放り投げられ壁にぶつかり乾いた音を立てた。次いで床の縁に手をかけて、金髪の頭が顔を出した。
「何があった?」
「なんにもないよ、ただこのガラクタが言うことをきいてくれないだけさ」
その内容もさることながら、言葉に混じる刺々しさにソロは眉根を寄せた。
青年は手で身体を押し上げ縁に腰掛けると、こちらに背を向けたまま右手に負った切り傷を調べ始めた。
「切ったのか」
少々複雑ではあったが、気を取り直したソロが手を伸ばすと、青年はその手を振り払った。
「そうだよ、あんたのどうしようもない船の所為でね!」
流石に言いすぎたと気づいたのか、一瞬ハッとしたルークだったが、呆気に取られた後、瞬時に「このクソ餓鬼…」という怒りに塗り替えられたソロの顔を、意地になって睨み返した。
「何がそんなに面白くないのかは知らんが、任されたことくらいは片付けてから文句を言え!」
「ああ面白くないね!一体ここを修理させられたのは何回目だと思ってるんだよ!」
その後はもう、悪口の応酬だった。
様子を伺いに来たファルコンの副操縦士が、呆れて入り口に立ちつくしているのにも気づかない様子で、コレリアの密輸業者と金髪のジェダイ見習いは互いに息が切れるまで怒鳴り合っていた。しばらくして、肩で息をつく二人の言い合いに一段落が着くと、チューバッカが低く唸り声を上げた。そこで初めて背高のウーキーに気づいた二人が、少々気まずそうに彼に目を向けた。呆れたようにグルグルと喉を鳴らしながらも、どこか面白がっているような声音で一言二言言い置いて、ウーキーは戸口から姿を消した。
「……くそ…」
ため息をつき、ソロがちらりと目線を向けると、ルークは顔を赤らめ目を逸らした。
お手上げだという身振りをして、年上のコレリア人も部屋を出て行こうとした時、背中に小さく謝罪の言葉が投げられた。
「…聞こえないぞ」
肩越しに振り向くと、青年は気まずそうにしながらも、青い瞳でまっすぐソロを見つめて言った。
「ごめん、八つ当たりした」
「ああ、とんだ迷惑だ」
台詞とは裏腹に、口の端に笑みを滲ませたソロが手を伸ばし、ルークのくせのある髪をかき乱した。
「救急箱とってきてやるから、ラウンジで待ってろ」
見かけによらず器用なソロの手が、化膿止めを塗った手に包帯をくるくると巻いていく。それを大人しく眺めながら、ルークがぽつりと言った。
「明日はいいことあるかなあ」
作業の手を止めずに、ソロは片方の眉を上げて見せた。
「今日が最低だとしたら、明日はましになるんだろうさ」
返ってきた言葉に一瞬面食らった顔をした青年は、その日初めて明るい笑みを浮かべた。
「そうだね」