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隠しきれない傷
若松静音 高等部 1−E 吹奏楽部 ファゴット
(帰り支度をすませ、部室から出てくる正太を壁に寄りかかって待っていた)
……鵜飼くん。 ちょっと、いいかな?
これ、あとりちゃんから預かってて……。(包みを差し出す)
「(周りを少し見渡してから)……どうも」
(間髪入れないようにしながら)
あとね、これも、ついでに受け取って?(もうひとつ包みを差し出す)
「……これは、誰から?」
(息を少し呑み込んでから)……私から、よ。(努めて明るい笑顔を見せる)
せっかくまた一緒の学校に通ってるんだし、これからも仲良く……
「(静音のひきつった笑顔を剥がすように睨み返して)…ふざけんな! ……まだわかんねぇのかよ!?」
(気力を振り絞って脅えないようにしながら)…なにをよ?! なんでそんな風に言うのよ?!
私はただ、ショウちゃんとまた……
「(言葉を遮って)…だったら!!」
(プレゼントを差し出していた静音の両手首を右手だけで掴み上げ、壁に押しつける)
(引き上げられる拍子に取りこぼした綺麗な小箱が、ゆっくりと落ちていく)
(それしかできないように固まって正太を見つめる静音の顔に、乱暴に顔を近付けようとして―――)
(コトリ、と音がした)
…っいやああぁぁっ!!
(音のおかげで我に返ったように、寸でのところで渾身の力で戒めを押し返し、正太を突き飛ばす)
(そして、そのままガタガタと震えながら、膝を抱えるように崩れ落ちる)
「(一歩後ずさっただけで踏みとどまり、小さくなった静音を泣きそうな顔で見下ろしながら)……やっぱりまだ、気にしてるんじゃねぇか……」
(言い終わると、静音をそのままに、踵を返して昇降口へと向かう)
……当初の予定通りとは言え、重たくて申し訳なく……(土下座)
[本体:淡 楓]
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