焼却炉のところへ行って、あざみたちが戻ってくると葵の姿はなかった。
尚紀がぼんやりと飼育小屋を眺めている。
「兄ちゃんはっ?」
あざみは、尚紀の3歩ほど手前で止まってきいた。
尚紀が驚いたようにあざみたちを見、
「きみたち、4人だけなの?」
「……あのお姉さんたちは、うさぎをつれて帰ったのです」
未国がぼそぼそと言う。
焼却炉の中にあったすすけたダンボール箱。
取り出して、中を確かめて。
もぞもぞと動いていたうさぎたち。
抱え込んで、泣いていた梢を思い出し、未国は顔をしかめた。
そうか、そうだよね、と尚紀は上の空で呟いた。
「兄ちゃんはどこっ」
あざみが苛立ったように質問をくり返す。
「ああ、渡瀬くんならね、帰ったよ。すごくすごく僕のことを怒って」
「あたりまえじゃんか! あたしだって、あたしだって……っ!」
あの姉ちゃんに嘘ついちゃったじゃないかっ、とあざみは叫ぶ。
「嘘?」
「そうだよっ! 兄ちゃんたちは、あの姉ちゃんに負けないぐらいうさぎが好きだから平気だって言ったんだ! だいじょぶだよって! それなのに!」
「そうなんだ」
尚紀はすこし困ったような表情をした。
それから、足元に置いていたかばんを持ち上げて、
「これ、渡瀬くんのかばんなんだ。忘れて行っちゃったから、持って帰ってあげて。……あざみちゃん、っていったっけ?」
尚紀はてくてくと歩いてくると、あざみの横にそっとかばんを置いた。
「きみのお兄ちゃんは、優しいね。僕、きみのお兄ちゃんといると楽しくてしかたなかったんだ」
「…………」
あざみはうつむいてなにも言わない。
尚紀はかすかに笑みを浮かべた。
「嘘つかせちゃってごめんね」
そうして、足音が遠ざかる。
うつむいたままのあざみに、未国はそっと声をかけた。
「……あざみちゃん」
「みくにちゃん」
ぱっと顔をあげて、早口であざみは言う。
「葵兄のどこがやさしいのかな。全然あたしにはわかんないよっ。だってねっ、らんぼうだっていつもおこられてるしねっ、柏兄とかのほうがよっぽどやさし……」
ふいに、口元が歪んだ。
目がうるんで、それを手でこする。
うつむいて、うつむいたまま、言った。
「……あの兄ちゃんだって……やさしそうだって、あたしは、思ったんだ……」
それなのに。
「あざみちゃん、あざみちゃん、泣かないでください。きっと……きっと、……」
なにか言いたいのだが、なんと言っていいのかわからず、未国が沈黙する。
その瞳も、かすかにうるんでいた。
哀しそうな顔で緋琉亜が優にぼそりと呟く。
「……こういうときは……なにか言うべきなのかな」
「うん……」
優はうなずいたものの、それきりなにも言えなかった。
空っぽの飼育小屋が、夕焼け色に染まっていくのをただ眺めていた。
『Dust Box』 …… END
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